個人で活動するアウトドアガイドが増えて来ました。個人事業なので売上高は知れている。仮に意図的でない過少申告があったとしても、微々たる物に違いない。したがって、税務署がウチなんかを相手にするはずがない。という希望的観測、個人事業主あるある。事実、私もそう思っていました。
税務署からの電話
税務署から電話があったのはラフティングシーズンも終わりに近づいた10月下旬。ネット情報によると、税務調査は秋に多いようです。ドキッとしました。脱税のため意図的に帳簿を操作している自覚はなくとも、ドキッとします。ドキッとする理由もわかっています。『この仕訳どうするんだろうなぁ、よくわからんが、貸借のバランスに影響するわけではないし、どうせウチなんかに税務署が入ることもないだろうから』と、曖昧なまま記帳してしまっている仕訳が多いため・・・
調査官の訪問にあたり、都合の良い日時を訊ねられました。この事前連絡には、こちらに準備する暇を与える意味合いもあるのかもしれません。こちらの都合の良い日時を伝えると、それまでに揃えておくよう伝えられたのは過去三年分の書類。
- 総勘定元帳
- 領収書・請求書
- 給与の支払い事実がわかるもの
- 預金通帳
- 購入した事業用車両の金額がわかるもの
これらを調査した上で怪しい点があれば、さらに2年分遡って用意させられる場合もあるとのこと。私は、会計ソフト内のデータから、3年分の総勘定元帳をプリントアウトしました。これら書類は、本来、紙で残して7年間保存することになっています。
調査官の来訪
事前連絡から数日後の訪問日。調査官は中年男性1人。用意したコーヒーには一切手をつけず、さっそく調査開始。まずは身辺調査のようなものでしょうか、開業から現在に至るまでの過程について、抜かりなく淡々と質問を浴びせてきます。威圧的ではありませんが、うっかり下手なことを口にできないという緊張感。感覚的には尋問のようでした。
次に、こちらで用意した書類と税務署に提出済みの申告書類を照らし合わせての質問タイム。まず第一に、固定資産台帳にある事業用車両の購入について訊ねられたとことから察すると、購入資金の出所について怪しまれていたのかもしれません。マイカーローンで購入したものでしたが、このローンについて、長期借入金として記帳する必要性を認識しておりませんでした。
- 事業用の資金と生活費の区別がないこと。
- 仕訳に摘要が不足していること。
- 領収書が無秩序に配置されていること。
以上が主に指摘を受けた箇所。私自身、最も反省すべきは、生活費として事業主貸を計上していなかったこと。これにより、帳簿上で存在している現金が実際には存在していません。ただし、存在しない額が生活費として妥当なものであるということは理解しているようでした。
予約台帳のコピー、ヘルプ先との契約書、クレジットカードの明細等を追加で用意しましたが、調査は終わらず、この日は終了。書類を持ち出す手続きを取り、持ち出しできない通帳等はデジカメで撮影していきました。
ネットで閲覧した例では、1日で終了するケースも少なくないようです。
調査対象になりやすい個人事業主
なぜ、ウチのようなちっぽけな個人事業主が調査対象に選ばれたのか?と訊ねたところ、その経緯については調査官にもわからないとのこと。調査官は指示された通り指示された調査対象を調べに来るだけなのだそうです。
ネット情報を拾っていくと、調査対象になりやすい個人事業主の事業は、
- 売上900万円前後:消費税の支払いを免れるため売上を1000万円未満になるよう過少申告している疑いがある。
- 利益が少ない:利益が少な過ぎると、生活費をどう工面しているのか怪しまれる。
- 現金での売上が多い:やりとりの証拠が残らないので、売上を隠しやすい。
なるほど全て当てはまっています。この他、個人的に思い当たる節を挙げてみると、
- 反面調査と還付金:一昨年取引先に税務調査が入っていること。昨年より、その取引先が(税務署からの指導に従い)個人事業主への支払いの際に、源泉所得税を徴収していること。そして今年、その源泉所得税が還付されていること。
といったところでしょうか。
2度目の連絡と来訪
前回のやりとりで、概ね1、2週間で結果が出るものと予測していましたが、待てど暮らせど連絡はなし。調査官は何件も掛け持ちで調査しているとのことだったので、ウチなどはちっぽけ過ぎて後回しにされているのか、はたまた入念に調査されているのか。胸にモヤモヤを抱えたまま約一ヶ月半が経過した頃、ようやく電話があり、前回同様都合の良い日を訊ねられました。不明な点が何点かあり、それについて聞きたいとの由。
数日後、調査官2度目の来訪。前回持ち出した書類の返却手続きを終えて本題へ。調査官に示されたのは通帳の入出金記録。前回提出したゆうちょ銀行個人用、北洋銀行個人用、北洋銀行事業用の3種類に記載された入出金の記録を3年分時系列で書き出し物でした。
指摘されたのは、売上のない11月に、ゆうちょ銀行の口座に90万円程度の預け入れがあったこと。売上もなく他口座からの引き出しもないのに、どこから90万円出て来たのかと。手元にそれだけの金額を置いておくのは不自然だと。確かに不自然ですし、私自身それだけの大金を手元に置いていた記憶もありません。ゆうちょ銀行の口座に90万円預け入れた理由は、海外のメーカーから購入した川下り用品の引き落としがあるためだったのですが、この90万はいったいどこから出て来たのか。
3年前の希薄な記憶の糸をより合わせてようやく90万円の出所はわかったのですが、記帳されていない謎の大金が突如出現したとあれば、調査する側としては怪しまざるを得ないわけですね。私の感触では、この時点で、調査官は私に過少申告の意図はないと判断していたと思います。調査官も百戦錬磨でしょうから、入出金の実態や、節税意識の低さは、提出書類から概ね見て取ることが出来るのではないでしょうか。
他に大きく怪しい点はなく、ただこの点のみ説明がつかないということ。この帳簿にない大金の出所をどう報告すべきかということ。それだけが問題のようでした。
調査結果
2度目の来訪から数日後、調査官から電話があり、今回調査した3年の間、更正決定等をすべきとは認められなかったとの結果に落ち着いたということを知らされました。
税務調査はまず3年分の調査から始まるのが一般的なようです。この時点で軽微な申告漏れがあれば、所得金額の増加による所得税の不足分の他、住民税や健康保険料の不足分、場合によっては加算税等も納めなければなりません。
3年分の調査を進める中で悪質な申告漏れがあればさらに2年、そこからさらに2年とさかのぼり、最長で書類の保存が義務付けられている7年分の不足分を支払うことになります。
余談ですが、私の知人の中に、「脅しで減額させた」、「貧困をアピールして減額させた」という方々がおりました。今回、私が実際に調査官と相対してみた感想としては、調査官は確かにさじを持っているということ。調査官のさじ加減が結果にどれほどの影響を与えうるのかは不明ですが、ゼロではなさそうだということ。
私は記帳に関する指導にも良く首肯し、後者に近い形で接するよう勤めました。その甲斐あってというわけでもないでしょうが、追加納税を免れました。もちろん追加納税のないことを願っていましたが、税務調査が入るも追加納税なしというのは少し恥ずかしい気もしてしまいます。
これで向こう3年税務調査は入らないでしょうが、5年後くらいに今度は別の調査員が来るかもしれないとのこと。
まとめ
「売上900万円前後の事業主」が狙われやすいというのは本当か?」
実際に調査官に伺ってみました。本当だそうです。900万円前後の売上が何年も続いている事業主を調査してみると、2人に1人、に近い確立で売上を過少申告しているとのこと。
ニセコウッカに関しても、今回この点を最も怪しまれて調査対象になったのだと思いますが、調査官が実際に予約台帳の紙版、PC版を見て、信憑性が高いと感じた時点で、ほぼ私の疑いは晴れていたように思います。
税務調査に怯える個人事業主のもうひとつの関心は、経費に関することだと思いますが、今回、経費に関しては何一つ質問を受けませんでした。「飲食費」等の手書きの領収書が多いとツッコミ所も多いのかもしれませんが、消耗品等通常の支払いに関しては領収書や明細が残ってしまう分、ごまかしにくいのではないでしょうか?
また、本業以外の収入を申告していない方がおられるかもしれませんが、個人名義の通帳まで提出させられることを考えると、隠し通すことは難しいと思います。万一申告していない収入の存在が明るみに出た場合は、かなり大きなペナルティを覚悟する必要がありそうです。
もう一つ。今回、調査官が来訪する前の事前準備に丸2日費やし、余計な仕事を増やしやがってと毒づきながら書類を整理しましたが、終わってみれば、現在の経営状態を把握し、見直す良い機会になったと心の底から感じています。
3日後、倶知安税務署より、簡易書留にて「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が送付されて来ました。
晴れて自由の身。意外に長かったなぁ、、、
売上900万円前後、主に現金でツアー料金を徴収している個人事業主の皆様、今からご準備を!